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大阪地方裁判所 昭和40年(ワ)1221号 判決 1967年3月28日

主文

被告は原告に対し、別紙目録記載の土地につきそれぞれ大阪法務局天王寺出張所昭和三八年五月二七日受付第一一六七四号をもつてなされた所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は全部被告の負担とする。

事実

原告は、「訴外大川猛が、昭和三八年五月二七日別紙目録記載の土地について被告との間にした、売買を原因とする所有権移転行為を取消す。」との判決ならびに主文第一、三項と同旨の判決を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

「訴外大川猛は、昭和三九年一〇月二〇日大阪地方裁判所において破産宣告を受け、原告がその破産管財人に選任された。

大川は、昭和三四年四月二一日支払いを停止し、昭和三七年一月二七日債権者紀南信用組合から破産の申立を受けたのであるが、その破産申立事件の審理中である昭和三八年五月二七日頃、大川は、その所有する唯一の不動産である別紙目録記載の土地(以下本件土地という。)を代金二、二五〇万円で被告に売渡し、同日大阪法務局天王寺出張所受付第一一六七四号をもつて、売買を原因とする被告への所有権移転登記手続をした。

本件土地売却当時、大川は少なくとも一五、七一四、〇〇〇円の債務を負担しており(この債務の支払不能が破産宣告の理由となつた。)、しかもすでに破産の申立を受けていたのであるから、大川が破産債権者を害することを知つて本件土地を被告に売却したものであることは明らかである。

よつて、原告は、破産法七二条一号にもとづき、大川と被告との間の本件土地売買契約を否認する。

仮りに右否認が認められないとしても、大川のした本件土地売却行為は、破産の申立があつた後にした破産債権者を害する行為であり、被告は、本件土地を大川から買受けた当時大川がすでに破産の申立を受けていることを知つていたのであるから、原告は、破産法七二条二号にもとづき、大川と被告との間の本件土地売買契約を否認する。

よつて被告に対し、右売買を原因とする所有権移転行為の取消しと前記所有権移転登記の抹消登記手続を求める。」

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、認否として、

「原告が破産者大川猛の破産管財人に選任されたこと、被告が昭和三八年五月二七日頃大川から本件土地を買受け、原告主張のとおりの所有権移転登記手続をしたことは認める。右買受当時大川が破産の申立を受けていることを被告が知つていたとの事実は否認する。その他の原告主張事実は全部知らない。」

と述べ、抗弁として、

「被告は、南北商事こと藤原昇の仲介によつて本件土地を大川から買受けたものであつて、その当時大川の本件土地売却が大川の破産債権者を害するというような売主側の事情については、被告は全然知らなかつた。」

と述べた。

原告は、「被告の右抗弁事実を否認する。」と述べた。

証拠(省略)

理由

一  成立に争いのない甲第一、二号証によると、訴外大川猛は、昭和三七年一月二七日債権者である訴外紀南信用組合から破産の申立を受け、昭和三九年一〇月二〇日大阪地方裁判所において破産宣告を受けたことが認められる。そして、原告がその破産管財人に選任されたことは、当事者間に争いがない。

二  被告が、昭和三八年五月二七日大川から本件土地を買受け、同日大阪法務局天王寺出張所受付第一一六七四号をもつて、その所有権移転登記手続をしたことは、当時者間に争いがない。

前掲甲第一号証、証人鎌苅卯三郎の証言により真正に成立したことが認められる乙第一ないし第三号証および証人大川猛の証言によると、大川は、かつて本件土地上の建物で旅館業を経営していたが、昭和三七年一二月火災によつて右建物および所有動産の全部を失ない、本件土地を被告に売却した昭和三八年五月当時、大川の所有する積極財産としては、本件土地が唯一のものであつたこと、その当時大川は、少なくとも、破産申立人である紀南信用組合に一五、七一四、〇〇〇円、訴外株式会社大阪商工振興会に約六〇〇万円、大川の兄である訴外大川孝太郎に約二七〇万円、大川の妻のいとこの夫である訴外山本信吾に三〇〇万円、合計約二、七四〇万円の債務を負担していたこと、大川は、被告から代金二、二三〇万円を受取り、そのうち約一六〇〇万円を右債権者のうち紀南信用組合を除く他の三名に対する債務の弁済等に充て、うち約六〇〇万円を新たな事業(食堂経営)の準備資金に費やしたこと、以上の事実を認めることができる。この事実によれば、大川の本件土地売却行為は、破産債権者を害する行為であるというべきである。

そして、証人大川猛の証言によれば、大川は、右売却当時、すでに紀南信用組合から破産の申立を受け大阪地方裁判所で審理中であることを知つていたことが認められるから、このことと前記認定事実とによれば、大川は、破産債権者を害することを知つて本件土地を被告に売却したものであると認めることができる。

以上の認定に反する証拠はない。

三  被告は、本件土地買受当時、大川の売却行為が破産債権者を害することを知らなかつたかどうかについて判断する。

成立に争いのない甲第三、四号証、前掲乙第一ないし第三号証、証人大川猛、同辰己〓一、同藤原昇、同鎌苅卯三郎の各証言によると、大川は、昭和三八年三月頃不動産仲介業者である辰己〓一に、本件土地売却のあつせんを申込み、辰己はこの話を同業者である南北商事こと藤原昇に持込み、鎌苅卯三郎が被告の代理人として藤原に本件土地買受けの申出をして、交渉の結果、同年五月二〇日鎌苅卯三郎宅に原告、辰己、藤原らが集まり、原告と被告の代理人鎌苅卯三郎との間で代金を二、二五〇万円とする本件土地の売買契約が締結され、同日大川は手附金五〇万円を受取つたこと、当時本件土地の所有名義は、大川の株式会社大阪商工振興会に対する約六〇〇万円の債務を担保する目的で、同会の名義となつていたこと、同月二七日大川は被告から代金内金六五〇万円の支払いを受け、大阪商工振興会に対する債務を弁済して本件土地の同会の所有権登記を抹消し、同時に被告への所有権移転登記手続をしたこと、同年六月二八日大川が、本件土地の間口が当初の約束より狭かつたとのことで前記契約代金から二〇万円を減額し、残代金の全部である一、五三〇万円の支払いを受けたこと、以上の事実を認めることができる。右認定に反する証拠はない。

ところで、証人藤原昇、同辰己〓一、同鎌苅卯三郎の各証言中には、被告の善意に関する前記抗弁事実にそう部分があるが、次の認定事実に照らし、これを信用することはできない。すなわち、

証人大川猛、同辰己〓一の証言によると、大川は辰己に本件土地売却の仲介を頼んだ際、三、〇〇〇万円以上で売つてくれと述べたことが認められ、それにもかかわらず二、二五〇万円で契約が締結されたこと(証人藤原昇、同鎌苅卯三郎の証言中、右二、二五〇万円が時価またはそれ以上であるとの部分は、にわかに信用できない。)、証人大川猛の証言により、大川は、辰己にも鎌苅にも、借金があつて追いこまれているので本件土地を早く売却したい旨を述べた事実が認められること(証人辰己〓一、同鎌苅卯三郎の証言中これに反する部分は信用できない。)、証人鎌苅卯三郎の証言により、鎌苅卯三郎は、契約締約の直前に本件土地の所有名義が株式会社大阪商工振興会になつていることを知りながら、それが真実担保の目的でなされているものかどうかを同会へ直接問合わすこともせず契約を締結し、手附金を支払つたことが認められること、大川は、代金の三分の一にも満たない七〇〇万円を受取つた段階で被告への所有権移転登記手続をしており、このようなことは不動産取引の常識からは異例のことであるが、そのように移転登記を急いだことについて、他に何ら特段の事由も認められないこと。さらにこれらの諸点を考慮すると、被告の代理人である鎌苅卯三郎は、本件土地買受当時、大川が相当借金があつて本件土地を売り急いでいることを知つていたことが認められないではないこと。

そうだとすると、前記証人藤原、辰己、鎌苅らの証言によつては、被告の代理人である鎌苅卯三郎が大川の本件土地売却が破産債権者を害することを知らなかつたことを認めるには十分でなく、他にその善意を認めるに足る証拠はない。よつて被告の抗弁は採用できない。

四  そうすると、破産管財人である原告は、破産法七二条一号により、大川の本件土地売却行為を否認することができるから、本件訴状が被告に送達されたことによつて否認の効果が生じ、本件土地は破産財団に復帰したものということができる。

したがつて、本訴のうち所有権移転登記の抹消登記手続を求める請求は理由があるから、これを認容することとする。

五  原告は、右請求のほかに、大川のした本件土地所有権の移転行為の取消しをも訴求する。しかし、否認権は抗弁によつても行使することができること等に鑑がみ、否認の訴が提起されたときは、前記のように、その訴状が被告に送達された時に否認の効果が生ずるものと解すべきであつて、形成判決によつてはじめて否認の効果が生ずるものと解すべきではない。したがつて、本訴のうち右取消しを求める請求は理由がないから、これを棄却することとする。

よつて、訴訟費用の負担につき民訴法九二条を適用して、主文のとおり判決する。

目録

大阪市南区久左衛門町六四番

宅地  一六一・八五平方メートル(四八坪九合六勺)

同所六四番の一

宅地    〇・一三平方メートル(四勺)

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